
雨の日に、そっと手に取ってほしい一冊
梅雨の季節が近づくと、毎年この本を棚から引っ張り出したくなります。森野しずくさんの『雨やどりの図書室』。初めて読んだのはもう三年前になりますが、読み終えたあとの静かな余韻が、いまでも胸のどこかに残っています。
あらすじ
舞台は、地方の小さな商店街の一角にある古い図書室。主人公の三十代の女性・汐(しお)は、仕事も住む場所も失い、ふらふらと故郷の町に戻ってきます。突然の夕立に追われるように飛び込んだのが、幼い頃に通ったこの図書室でした。懐かしい本の匂い、無口だけれど温かい司書の老人、そしてそこに集まる、それぞれに何かを抱えた人たち。汐はやがて、雨やどりのつもりで立ち寄った場所に、少しずつ居場所を見つけていきます。大きな事件は起きません。ただ、日々の会話と、本と、雨音だけが積み重なっていく物語です。
店主が好きな場面
汐が図書室の奥の棚で、子どもの頃に好きだった絵本を見つける場面があります。ページをめくりながら、昔の自分に語りかけるような独白が続くのですが、その言葉があまりにも静かで、あまりにも正直で、読んでいて思わず本を閉じてしまいました。泣いたのではなく、ただ少し、息を整えたくなったのです。こういう瞬間をつくれる作家さんは、なかなかいません。
こんな人に読んでほしい
「最近、なんとなく疲れているけれど、その理由がうまく言えない」という方に、特に届いてほしい一冊です。また、本や図書館が好きな方、静かな物語が好きな方にも、きっと合うと思います。読むのに力がいらないのに、読み終えると何かが少し変わっている——そんな不思議な読後感を、ぜひ味わってみてください。
店頭の文芸の棚にあります。